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神戸地方裁判所伊丹支部 平成元年(ワ)265号 判決

原告 株式会社李白

右代表者代表取締役 白方信行

右訴訟代理人弁護士 加藤成一

被告 株式会社 サウスポイント

右代表者代表取締役 山﨑市郎

右訴訟代理人弁護士 山上東一郎

主文

一  被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成元年一二月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

四  この判決は、一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、金五五〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成元年一二月一二日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告に対し、クルーザー専門全国誌月刊オーシャンライフに被告の費用をもって別紙記載の謝罪広告を掲載せよ。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  被告は、クルーザー等の輸入・販売を業とする会社である。

2  被告は、月刊雑誌「オーシャンライフ」の平成元年六月号及び八月号に、ハイラス社製モーターボートの輸入・販売元としての広告を掲載した際、原告所有の大型サロンクルーザー「プリンス号」(以下、本件クルーザーという。)の写真を掲載し使用した。

二  争点についての当事者の主張

1  原告は、次のとおり主張した。

(一) 原告は、本件クルーザーを原告経営のマリンホテルのシンボルとして使用していたが、被告がその船名入りの写真を無断で前記雑誌に掲載し、その販売広告用に使用したため、本件クルーザーが売りに出ている、原告経営のホテルも経営悪化で売りに出される等の噂が広がり、原告の営業上の信用、名誉が著しく侵害された。

(二) 右噂が広がったため、従業員も辞めていき、売上も減少して、原告経営のホテルは廃業のやむなきに至った。

(三) その結果、原告は甚大な損害を蒙ったが、そのうち弁護士費用五〇万円を含めた合計五五〇万円を請求する。

2  被告は、次のとおり主張した。

(一) 本件クルーザーの写真は、原告の前所有者が所有していた時にその承諾を得て撮影し、前記雑誌に掲載したものである。

(二) 被告が同雑誌に掲載した広告は、被告がハイラス社製モーターボートの輸入・販売元であることを知らしめるものであって、その広告に使用した写真もユーザーの使用例として掲載したものである。

(三) 原告に損害が発生したことは争う。原告経営のホテルは既に廃業し、本件クルーザーは他に売却されているから、謝罪広告の必要性もない。

第三争点についての判断

一  本件全証拠を総合すれば、次の事実が認められる。

1  原告は、平成元年二月一八日、本件クルーザーの買受けの申込をなし、その頃その譲渡を受けて、以後これを小豆島にある原告経営のマリンホテルのシンボルとしてホテル利用客の観光用等に使用していた。

2  本件クルーザーは、被告が輸入・販売した「ハイラス五〇」の一号艇であったため、被告は、その販売先である訴外株式会社プリンス画廊に対し、その後の販売のために被告が同艇を利用すること、即ち同艇の写真を被告の宣伝広告用に雑誌に掲載することなどの販売協力方を依頼し、その承諾を得て、同艇の写真を撮影し、これを被告の宣伝広告用に月刊雑誌「オーシャンライフ」に掲載すべく、そのネガを平成元年二月上旬頃オーシャンライフ社に送って、その掲載を依頼した。

その少し後の同月末頃、被告は、本件クルーザーの所有権が右プリンス画廊から原告へ移転したことを知ったが、被告は、右写真の雑誌掲載について原告の承諾を得るか、その承諾が得られない場合には右雑誌掲載を中止するか等の手続をとらなかった。

3  被告が「オーシャンライフ」に掲載した右広告は、被告がハイラス社製モーターボートの輸入・販売元であることを知らしめるためのものであって、右写真もユーザーの使用例として掲載したものである。

4  「オーシャンライフ」は、クルーザー等に関する情報雑誌であるが、右のような広告の掲載とは別の、クルーザー等の中古艇の販売のための記事については、そのための特別のページが別に設けられている。

5  本件クルーザーの船名入りの写真が被告の広告用に「オーシャンライフ」に掲載されたため、その広告写真を見たボート愛好者らの何人かが本件クルーザーが売りに出されているものと誤解し、原告の「プリンス号が売りに出ている。」、原告の「ホテルの経営が苦しいらしい。」、「ホテルも売りに出される。」などといった噂が流れ、現に原告方へその旨の問合せがなされたりした。

6  原告経営のマリンホテルは、その後経営が悪化し、平成二年一月に廃業するに至った。本件クルーザーも既に他に売却されている。

二  右事実により、次のとおり判断する。

1  原告は、本件クルーザーの所有者として、同艇の写真等が第三者によって無断でその宣伝広告等に使用されることがない権利を有していること明らかである。

2  被告は、本件クルーザーの前所有者の時にその承諾を得て、平成元年二月上旬頃、同艇の写真を自己の宣伝広告用に「オーシャンライフ」に掲載することの依頼をしたが、同月末頃には本件クルーザーの所有権が右前所有者から原告へ移転したことを知ったのであるから、被告は、その時点で、新所有者である原告に対し、改めて右写真の雑誌掲載についてその承諾を得るべき義務があったというべきである。

しかし、被告は、原告に対してその承諾を求めることもせず、また右雑誌掲載中止の手続をとることもせずに、そのまま掲載したものであるから、被告は、原告に無断で本件クルーザーの写真を自己の宣伝広告用に右雑誌に掲載したこととなり、これによって原告が蒙った損害を賠償すべき責任があるといわざるを得ない。

被告が本件クルーザーの写真を右雑誌に掲載したのは、被告がハイラス社製モーターボートの輸入・販売元であることを知らしめるための広告であって、右写真もユーザーの使用例として掲載したものであるけれども、同写真には船名も入っているのであるから、右掲載にあたってはその所有者名をも明示すべきであったというべきであり、これを怠った点で、右の責任を免れることはできないといわざるを得ない。

3  雑誌「オーシャンライフ」では、クルーザー等の中古艇の販売のための記事については、そのための特別のページが設けてあり、被告の本件宣伝広告の写真は、右のページとは別のページに掲載されているものであるから、右広告写真を見ても、それが本件クルーザーの販売目的ではないと判断する場合が多いのではないかとも推察されるが、しかし現に右船名入りの広告写真を見たボート愛好者らの何人かが本件クルーザーが売りに出されているものと誤解し、経営悪化により原告経営のホテルも売りに出される等の噂も流れ、原告にもその旨の問合せがなされ、そのため本件クルーザーを小豆島にある原告経営のマリンホテルのシンボルとして使用していた原告のホテル経営上の信用、名誉が侵害されたことは明らかである。

本件に現われた諸般の事情を総合すれば、右信用、名誉の侵害による原告の損害は、弁護士費用分も含めて一〇〇万円が相当と認める。

4  原告は、被告が本件クルーザーの写真を無断で雑誌に掲載したことにより、前記のような噂が広がり、そのためホテル従業員が辞めていき、サービスが行き届かなくなって客数が減少し、売上も減少してホテルは廃業するのやむなきに至った旨主張するが、右写真の無断掲載とホテル廃業との間の相当因果関係の存在については、《証拠省略》等本件全証拠によっても、これを認めるに足りない。

5  原告経営の小豆島のマリンホテルは既に廃業し、本件クルーザーも他に売却されているから、原告の右ホテル経営上の信用、名誉の侵害による損害の回復については、前記賠償の他に更に謝罪広告の掲載を命ずる必要性はないものというべきである。

三  以上のとおり、原告の本訴請求は、一〇〇万円とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成元年一二月一二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

(裁判官 横山敏夫)

〈以下省略〉

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